2026/09/28 相続・成年後見
成年後見の申立ての流れと費用|親の口座が凍結される前にできること
「親の預金から、施設の費用を払おうとしたら断られた」
ご相談の入口として、最も多いのがこのパターンです。多くのご家族は、この瞬間まで成年後見という制度を意識されていません。
この記事では、成年後見の申立ての流れ、費用と期間の目安、後見人に誰が選ばれるのか、そしてまだ判断能力が残っている段階で選べる別の選択肢まで、順を追って整理します。
「親の口座からお金が出せない」――そのとき何が起きているか
本人の判断能力が低下していることを金融機関が把握すると、取引に制限がかかることがあります。本人の財産を守るための措置ですが、ご家族から見れば、必要な支払いができなくなるということです。
困りごとが表面化するのは、主に次の3つの場面です。
- 預貯金の引き出し・解約:入院費や施設費用を本人の口座から支払えない。定期預金の解約に本人の意思確認が必要と言われる。
- 施設の入所契約:契約は本人が締結するものであるため、判断能力を欠く状態では有効な契約を結べない。
- 不動産の売却:自宅を売って介護費用に充てたくても、所有者本人が売買契約を結べない。
いずれも「家族なのだから代わりにできるはず」と思われがちですが、法律上、家族であることだけを理由に本人の財産を処分する権限が生じるわけではありません。その権限を裁判所に与えてもらう手続きが、成年後見です。
成年後見制度の3つの類型(後見・保佐・補助)
成年後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて3つに分かれます。どれに当たるかは、医師の診断書をもとに家庭裁判所が判断します。
| 類型 | 対象となる方の状態 | 支援する人 | 主な権限 |
|---|---|---|---|
| 後見 | 判断能力を欠くのが通常の状態 | 成年後見人 | 財産に関する法律行為についての包括的な代理権。日用品の購入等を除き、本人の行為を取り消せる |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 保佐人 | 借財・保証・不動産の処分など重要な行為への同意権・取消権。申立てにより特定の行為の代理権を付与できる |
| 補助 | 判断能力が不十分 | 補助人 | 申立てにより、特定の行為について同意権・取消権や代理権を付与できる |
実務上、ご相談の多くは後見の類型に当たります。認知症が進行し、日常的な金銭管理が難しくなっている段階です。
なお、保佐と補助で代理権を付けてもらう場合には、代理権付与の申立てを別途行う必要があり、本人の同意も必要になります。
申立ての流れ|6ステップと期間の目安

申立て先は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。ご家族が遠方にお住まいでも、本人の住所地の裁判所に申し立てます。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 相談・方針の決定 | 本人の状態、財産の状況、親族関係を整理し、どの類型で申し立てるか、誰を後見人候補者とするかを検討します |
| 2. 診断書の取得 | かかりつけ医などに、家庭裁判所所定の様式で診断書を作成してもらいます。ここが実質的なスタート地点です |
| 3. 申立書類の準備 | 申立書、本人の財産目録・収支予定表、戸籍謄本や住民票、登記されていないことの証明書、財産の裏付け資料などを揃えます |
| 4. 家庭裁判所へ申立て | 本人の住所地の家庭裁判所に提出します。裁判所によっては事前予約制です |
| 5. 調査・照会・(必要に応じて)鑑定 | 家庭裁判所の調査官が申立人や本人と面談し、親族に対して意向照会が行われることがあります。判断能力の程度に争いがある場合などには鑑定が実施されます |
| 6. 審判・確定・登記 | 審判書が届き、不服申立てがなければ確定します。その後、法務局に後見等の登記がなされます |
申立てから審判までの期間は、おおむね1〜4か月程度が目安とされています。ただし、親族間で意見が分かれている場合や、鑑定が実施される場合には長くなることがあります。
実務でご注意いただきたいのは、ステップ2の診断書です。医師に依頼してから受け取るまでに時間がかかることがあり、ここが全体のスケジュールを左右します。「急ぐ必要が出てから動く」と間に合わないことがあるのは、この工程があるためです。

必要書類と費用の目安
申立てにかかる費用は、大きく分けて「裁判所に納める実費」「診断書などの取得費用」「鑑定が実施された場合の鑑定費用」の3つです。
| 費目 | 内容 | 負担のイメージ |
|---|---|---|
| 申立手数料 | 収入印紙で納めます | 数百円程度 |
| 登記手数料 | 審判確定後の登記のための収入印紙 | 数千円程度 |
| 郵便切手 | 裁判所が関係先へ連絡するために予納します | 数千円程度 |
| 診断書の作成費用 | 医療機関によって異なります | 数千円程度 |
| 戸籍謄本・住民票等 | 通数によって変動します | 数千円程度 |
| 鑑定費用 | 実施された場合のみ。実施率は高くありません | 事案により幅があります |
これとは別に、後見が始まった後には後見人への報酬が発生します。報酬額は家庭裁判所が本人の財産状況や後見人の事務内容を踏まえて決定するもので、あらかじめ金額が決まっているわけではありません。報酬は本人の財産から支払われます。
また、弁護士に申立ての代理を依頼する場合には、別途弁護士費用がかかります。当事務所の費用については、料金ページをご確認ください。
後見人には誰が選ばれる?家族がなれないケース
申立ての際に後見人の候補者を挙げることはできますが、誰を選任するかを決めるのは家庭裁判所です。候補者を挙げたからといって、その方が必ず選ばれるわけではありません。
近年は、親族以外の専門職(弁護士・司法書士・社会福祉士など)が選任される割合が高くなっています。とくに次のような事情があると、専門職が選ばれやすい傾向があります。
- 本人の財産額が大きい、または財産の内容が複雑(不動産、有価証券、事業用資産など)
- 親族間で意見が対立している、あるいは連絡が取れない親族がいる
- 本人と候補者との間に、貸借関係や利益が相反する関係がある
- 遺産分割や訴訟など、法的な対応が見込まれる
- 候補者自身が高齢である、遠方に居住しているなど、事務の継続に不安がある
また、親族が後見人に選任された場合でも、財産の管理状況を確認する目的で、あわせて後見監督人が選任されることがあります。
「家族が管理したいのに専門職が選ばれてしまった」という不満を後から抱かないためにも、申立ての段階で、どのような事情があるとどう判断されやすいのかを把握しておくことをおすすめします。
成年後見のデメリットと注意点
成年後見は、始めればすべてが解決する制度ではありません。むしろ「使い始めると戻せない」性質があるため、事前に理解しておくべき点があります。
本人の財産は、本人のためにしか使えない
後見人の職務は本人の財産を守ることです。したがって、相続税対策のための生前贈与、家族への資金援助、収益を狙った資産運用といった行為は、原則として認められません。「実家をリフォームして子世帯が住む」といった計画も、本人の利益にならなければ実行できません。
原則として、途中でやめられない
後見は、本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで続くのが原則です。「必要な手続きが終わったので終了したい」という理由で取りやめることはできません。不動産の売却のためだけに申し立てるつもりでいると、想定と異なる結果になります。
毎年の報告義務がある
後見人は、家庭裁判所に対して定期的に財産目録や収支状況を報告する必要があります。親族が後見人になった場合、この事務負担が続くことになります。
報酬が継続的に発生する
専門職が後見人や後見監督人に選任された場合、その報酬は本人の財産から継続的に支払われます。本人の財産が少ない場合には、生活への影響も検討しておく必要があります。
これらは制度の欠点というより、「本人保護を徹底した結果として生じる制約」です。納得したうえで選ぶことが大切です。
元気なうちに選べる選択肢|任意後見・家族信託・財産管理委任契約との比較

ここまで読んで「うちの親はまだ判断能力がある」と感じた方は、選択肢がもっと広い状態にあります。
| 制度 | 使える時期 | 主にできること | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 成年後見(法定後見) | 判断能力が低下した後 | 財産管理と身上保護の全般 | 判断能力がすでに低下し、口座や契約が動かせない |
| 任意後見 | 契約は判断能力があるうち/効力は低下後 | あらかじめ決めた範囲の代理 | 後見人を自分で選んでおきたい |
| 家族信託 | 判断能力があるうちに設定 | 信託した財産の管理・処分・承継 | 不動産の管理や、次の世代への承継まで設計したい |
| 財産管理委任契約 | 判断能力があるうちから | 委任した範囲の財産管理 | 体が不自由になったが判断能力はある |
任意後見は、公正証書で契約を結んでおき、判断能力が低下した時点で任意後見監督人の選任を申し立てることによって効力が生じます。誰に任せるかを自分で決められる点が、法定後見との最大の違いです。
家族信託は、財産の管理と承継を柔軟に設計できる一方、身上保護(施設の入所契約など)はカバーしません。任意後見と組み合わせて使うこともあります。
いずれも、本人に契約を結ぶだけの判断能力があることが前提です。「まだ元気だから」と先送りにしているうちに、選べる手が法定後見だけになってしまう、というのが最もよくあるパターンです。

よくある質問(FAQ)
Q. 施設に入るためだけでも、成年後見は必要ですか?
A. 本人が契約内容を理解して契約できる状態であれば、必ずしも必要ではありません。施設側が本人の意思確認を求め、それが難しいと判断された場合に必要になります。まずは施設に、どのような形であれば契約できるかを確認してみてください。
Q. 兄弟の同意は必要ですか?
A. 申立て自体は、四親等内の親族であれば単独で行えます。ただし、家庭裁判所から他の親族へ意向照会が行われることがあり、反対意見があると審理に時間がかかったり、専門職後見人が選任されやすくなったりします。事前に話し合っておくほうが、結果的にスムーズです。
Q. 遠方に住んでいても申立てできますか?
A. できます。申立て先は本人の住所地の家庭裁判所ですが、書類の郵送や代理人による対応が可能です。ご家族が遠方の場合こそ、専門家に手続きを任せるメリットが大きい場面です。
Q. 費用は誰が払いますか?
A. 申立ての費用は、原則として申立人が負担します。事情によっては本人の負担とするよう裁判所に求めることもできます。後見開始後の後見人報酬は、本人の財産から支払われます。
Q. 親族が後見人になった場合、報酬は受け取れますか?
A. 家庭裁判所に報酬付与の申立てをすることで、認められる場合があります。金額は裁判所が決定します。
まとめ|迷ったら「診断書を取れる状態か」で判断
成年後見が必要かどうか迷ったときの目安は、シンプルです。本人が契約の内容を理解して自分で決められる状態かどうか。もし判断が難しくなっているようであれば、まず医師の診断書を取れるかどうかから動き始めることになります。
そして、まだ判断能力が十分にあるのなら、任意後見や家族信託を含めて選べる段階です。選択肢が多いのは今だけかもしれません。
ご家族が集まるお盆や年末年始は、話を切り出しやすいタイミングでもあります。「まだ早い」と感じるくらいが、ちょうどよい時期です。


